前回は沖永良部島において島ことばの理解度が40代前後から下がり始め、30代後半から急速に低下することを紹介した。 現在、こうした島ことばの衰退の背景に、どんな社会的変化があったのかを調査している。まだ調査の途中だが、これまでに見えてきたことを紹介したい。

「島ことばがなぜ衰退したか?」を語る時に、よく話題に上がるのが、①学校での方言禁止②テレビの普及と、家庭内の使用言語―である。 この三つの要因を検証したところ、島ことばの理解度の低下に直接的な関連がありそうなのは「家庭内の使用言語」であった。 インタビューで24人のデータを集めたところ、家庭内での言語使用は (1)祖父母同士・親同士が方言で話し、本人も方言で話しかけられていたケース (2)祖父母同士・親同士は方言で話すが、本人は共通語で話しかけられていたケース (3)祖父母同士は共通語で話すか別居しており、親同士は共通語、本人も共通語で話しかけられていたケース―という三つのグループに分かれた。 そして、この(2)と(3)の境目が、ちょうど島ことばの理解度が下がり始める40代前後にあった。 言い換えれば、家庭内から方言が消えた世代と、方言の理解度が下がり始める世代が一致するのである。

graph

年齢による方言の理解度と、家庭内での使用言語

学校での方言禁止やテレビは、今のところ理解度の低下に直接影響しているようには見えない。 まずテレビは、オリンピックがあった1964年頃から地域・家庭へと浸透していったようだが、テレビの来島後に生まれた世代(55歳以下)も方言の理解度は高い。 次に、方言禁止は、沖永良部島では(明治時代のものを除いて)日本復帰後に始まり、1980年前後にかけて終わったようだが、 方言禁止を受けた40代後半~70代も島ことばをほぼ完全に理解する方々である。 ただし、それぞれ間接的な影響は認められそうで、テレビは共通語の普及を助けたことが他の方言で報告されており、 方言禁止は、それを受けた人が家庭内で方言の使用をやめるなど、本人ではなく次の世代の言語継承に影響しているようだ。

「危機言語を再活性化させるためには、まず家庭内で使うこと」と言われるが、今回の結果はまさにそれを裏付けるものとなった。 今回は衰退の背景を探ったが、「家庭内から方言が消えると、方言の理解度が下がる」ということは、 裏を返せば「例え本人が話さなくても、身近に方言を使っている人がいれば、わかるようにはなる」ということである。 だから島ことばを話す方は人前でどんどん話してほしい。そうすれば、島ことばのシャワーを浴びた人たちは、少しずつ島ことばが分かるようになる。 それが一番自然に島ことばを次の世代に伝えていく方法である。

※この記事の内容は、以下の発表を元にしています。 横山晶子・冨岡裕(2019)「琉球沖永良部語の衰退要因に関する一考察」日本言語学会、2019年6月22日

えらぶむに ©2022. Photo: ARISA KASAI